近年のコーヒーチェーンの台頭やカフェの人気で、かつての喫茶店の多くはその姿を消し、残っているお店も苦境にたたされていると聞きます。
一地方都市である長浜も決して例外ではなく、昔ながらの珈琲を提供するお店は続々と姿を消しています。
そんな状況の中、今でも地元の人から観光客まで愛される本物のコーヒーを提供し続けているお店があります。
それが大通寺の表参道に佇む「珈琲院ロマン亭」です。
大通寺と表参道

長浜の黒壁エリアの中でも最も長い歴史を持つスポットの一つ「大通寺」。
長浜の地が商業の町として栄えてきた様をその中心で見守ってきたこのお寺は、敷地内の多くの建造物が国の重要文化財にも指定されています。
そんな大通寺の正面に伸びるのが、長浜御坊表参道(ながはまごぼうおもてさんどう)と呼ばれる商店街です。
御坊というのは大通寺の別名であり、地元の人は大通寺のことを「御坊さん」と親しみを込めて呼んできました。
表参道はこの「御坊さん」の門前町として、かつての風情ある姿を今にとどめています。
昔ながらの喫茶店を思わせる外観

そんな表参道の一角で街の変遷をじっと眺めてきた名店が今回訪れた「珈琲院ロマン亭」。
外観はまさに「昔ながらの喫茶店」といった趣で「ロマン亭」の文字が印象的です。
建物はこのエリアの代表的な建築様式である町家造りを踏襲しており、町並みに溶け込んでいます。
お店からわずか100メートルほどの場所に大通寺が位置しており、店が面している表参道は休日には多くの人通りで賑わいます。
一歩足を踏み入れるとそこには「ロマン」が広がっている

大通りからお店に一歩足を踏み入れ、ドアを開けるとチリンチリンと入店を告げる鈴の音が心地よく響きます。
ボサノバなどの落ち着いたジャズがやさしく鳴る店内は、天井から降りた間接照明が心休まる空間を演出しており、外界の喧騒から離れて思わずホッと一息をついてしまいます。

店内を見渡して見ると至るところに各国のこだわりの品が置かれており、それを見ているだけでもまるで店主のこれまでの人生を垣間見ることができるようです。
並の店ではとても太刀打ちできない歴史、そこからにじみ出る圧倒的な雰囲気は、まさに「ロマン」の賜物と言っていいのではないでしょうか。
芸術的なテーブル席に座って雰囲気にひたる優雅な時間

来店時は平日の昼過ぎということもあり、常連さんのようなお客さんがおられる程度だったため、テーブル席に通して頂きました。
テーブル席はまるで舞台のような装飾がなされており、非常に幻想的。
ランプ状の照明とえんじ色の布幕が独特の空間を作り出しています。
大正モダン的な印象を与える色づかいのガラスがはめ込まれているのも特徴的で、いびつになってしまいそうなそれぞれのデザインが絶妙なバランスの上で成り立っています。

テーブル席の他にはカウンター席も4席ほど用意されています。
また、玄関付近にもテーブル席が用意されており、すべてを合わせると店内の席数は約20席ほどとなっていました。
こだわりのコーヒーは「本物の味」

今回私は「キリマンジャロ.KIBO」というコーヒーをオーダーしました。
キリマンジャロは高品質のコーヒー産地として有名ですが、そんなキリマンジャロコーヒーの中でも更に大粒で高品質なもののみが「KIBO」というグレードとして販売されています。
ちなみにこのKIBOという名はキリマンジャロ山嶺にある3つの峰のうちで、最も高い峰の名前である「キボー峰」の名前から取ってきているそう。
いざ、注文すると店員さんが「キリマンひとつ」と店主さんに口頭で伝えているやりとりが聞こえてきます。
5分ほど待っていると、コーヒーを運んできてくださいました。

こちらがロマン亭のキリマンジャロKIBOです。
入り口は酸味を舌先で感じるものの、全体としては非常にやわらかく仕上げられており、後味のすっきりとした口当たりもあり、さわやかな印象を受けます。
期待を上回る美味しさに、思わず表情が緩みます。
美味しいコーヒーを飲みたくなったら、これは通ってしまいそうです。
メニューからわかる、本物のこだわり
シングルオリジンコーヒーのように単一産地からの豆のみで抽出を行うコーヒーの味わい方は近年サードウェーブ系コーヒー店の人気の高まりで支持を集めていますが、かつての喫茶店で主流となっていたのは日本人が飲みやすい味わいになるように調節された「ブレンドコーヒー」。
いわゆる喫茶店ではブレンドコーヒーしかおいていないことも多いのですが、ロマン亭はメニューの先頭にストレートコーヒーが書かれており、かつてから「本物の珈琲の味」にこだわりを持って営業してきたのであろうことが伺われます。

ロマン亭のメニュー表はこのような感じでした。
店主自信がウィーンで長く学ばれていたこともあるためか、ウィンナーコーヒーも非常にバラエティ豊か。
次回来店した際には、ぜひこちらを味わってみたいと思います。
遊学放浪の末にたどり着いた味わい

長浜ではNo.1と言っても過言ではない、コーヒーの質の高さ。
この美味しさの基礎となっているのは、店主ご夫婦のこれまでの経験に裏打ちされているようです。
店主夫婦はかつて赤道直下のコーヒー生産諸国から、アメリカ・ヨーロッパのコーヒー文化先進国を遊学放浪した経験があるとのことで、店内にはそのころの写真が何枚も飾られていました。
本場で学んできたからこそ、本物の美味しさを提供できているのでしょう。
店内にはリーフレットもおいてあるので、興味のある方は呼んでみると、店主のコーヒーへの愛情を感じることができるでしょう。
昭和37年から続く名店のすべてを包み込む優しさ

珈琲院ロマン亭でのひとときは大満足の時間となりました。
普段店員さんに声をかけることなどなかなかないのですが、思わずお会計の際に声をかけて少しだけ話を聞いてしまいました。
お店自体はずいぶん前からやっていて…たしか昭和37年から営業していますね。
店主さん…あの、白い服を着ている人ね。
あの人が何度も海外に勉強に行っていたものだから、途中でやっていない期間もあったりしたんですけど。
そのたびにお店の形を変えながらやってきたんです。
常に変化してきたお店だからこそ、58年という気の遠くなるような期間、営業を続けてこれたのでしょう。
会計を終え、お店を出ようとしているときに、私が写真を何枚も撮っているのを見ていたからでしょう、
もっと写真を撮っていってくださって、大丈夫ですよ。
とやさしく声をかけてくださいました。
お言葉に甘えて写真を思う存分撮り、お店をあとにします。
歴史におごることなく、優しさに包まれている雰囲気のお店は、ただのカフェでは味わえない「ロマン」にあふれていました。
基本情報
infomation名称:珈琲院ロマン亭
住所:〒526-0059 滋賀県長浜市元浜町18−13
営業時間:10:00 – 16:45
定休日:火曜日
TEL:0749-62-3322
WEB:公式サイトなし
【mamizu web編集長】滋賀県出身の27歳。大学進学を機に地元を離れ、岡山、札幌、高知などで暮らした後、2018年末に帰郷。改めて地元で暮らすとWEB上の信用できる情報の少なさに気づき、2019年1月に滋賀の観光おでかけメディア『mamizu web』を立ち上げる。個人としては2016年1月にブログを立ち上げ月間10万PV規模のサイトに。外部メディアでライターとして執筆経験も多数。趣味は旅行と写真撮影。